仕事で営業車を運転していた俺(29)は、近道しようと郊外のラブホテル街を通り抜けた。
ラブホテルの立ち並ぶ路地、カップルを乗せた車と何台もすれ違う。
「くっそー、平日の昼間からイチャイチャしやがって・・」
とイラつきながら走っていると、ホテル駐車場の植え込みの影からクラウンが飛び出し、急ブレーキを踏んだ。
向こうも急停車。
間一髪セーフだ。
えっ・・・助手席に乗っていたのは、子どもが通う幼稚園PTA委員の安達麻由美さん(30)。
運転席は、安達さんの旦那ではなく、中年の男。
俺は目を丸くして助手席を見つめ、助手席の女性もハッと気がついた様子だ。
一瞬の間の後、クラウンのドライバーは手を上げると、路地に車を出して猛スピードで走り去った。
安達さんの旦那(33)は公務員で、仕事が忙しいことから幼稚園行事は全て奥さんが出ている。
俺も幼稚園PTAの役員をやっているので、話ぐらいはするのだが、明日からどうやって顔を合わせたものか・・・
その日の仕事は上の空で、ミス連発。
安達さんの旦那の顔が目に浮かぶ。
愛妻家で優しそうな人なのに。
家に帰っても、妻に話すことなく、ぼーっとしていた。