***に上がるまでは、それこそどこへ行くにも母と一緒なほど甘えん坊だった。
母は身長160センチほどの細身でスラリとしたスタイル。
色白の瓜実顔に黒目がちの大きな瞳。
いつもセミロングにしていた黒髪とすっきり通った鼻梁が、清楚で凛とした印象を与えていた。
例えるなら女優の水野真紀を思わせる顔立ち。
近所の母親たちなどいかにも“日本のお母さん”という女性が多い中、母は飛び抜けて若く美しかった。
授業参観や町内の行事で母と一緒の時など、子供心にも自慢気だったのを覚えている。
母は一人っ子の僕にいつもたっぷりと愛情を注いでくれた。
しかし躾には非常に厳しく、約束を守らなかったり嘘をついた時にはこっぴどく叱られ、人に迷惑を掛けるいたずらや悪さをした時には、それこそ容赦なくぶたれたものである。
父からは叩かれた事はおろか、怒られた事すらなかったのに。
だから幼少の頃の僕にとって、母は大好きな人であると同時に、「怖い存在」でもあった。
中学に上がる頃だろうか、思春期独特の反抗心から母に甘える事ができなくなり、内心では母に甘え、母に優しくしたい、されたい・・・、と思いながらも、照れと恥ずかしさから、どうしてもぶっきらぼうな態度しかとれなくなっていた。
そうしてそのまま親離れし、つつがなく高校・大学へと進学した。
そんな成長過程というのも、世間一般の親子ではそう珍しい事ではないかもしれない。